2024/11/03 01:27
失われた美的感覚
~筆文字の美しさを勘違いしている現代人~
筆を持つ仕事をしている人間として
たまには筆文字に関する話を。
どの分野にでも言えることですが
根本的に、その人に器がなければ
その物を理解することはできません。
美しい物を美しいと感じられないのは
日常から本物に触れていない事が大きく
影響しています。
残念ながら個人が元々持っている感覚や
経験などで本物と言える人かどうかはある
程度決まってしまいます。
私の実用筆文字における概念は以下の通りです。
【基本的に根本は変えずに
古典に習いながらも、そのままではなく多少
現代寄りにした文字を美しい実用筆文字とする】
勘違いされている人が非常に多いと思う事の
ひとつは
今、流行りの書道アートと呼ばれるものは
本来の書道とは全く別のものだという事。
あまり書道をやっていない人が、私にも
このくらいなら書けるとか、もっと上手く
書けると思ってしまうところが落とし穴
なのです。
本来の書道よりも書道アートが流行るのは
感覚や技術がなくても分かりやすく、
払う、跳ねる、線の太細などをオーバーに
表現する事で基礎がなくても誰にでも、
それなりに書けてしまうため、あたかも
自分の字が優れていると錯覚してしまう
“トリック”がそこにあるからです。
それは、よくも悪くも筆文字にはある程度の
誤魔化しが効くという所です。
分かる人には簡単に見破られてしまいますが。
その様な人は楷書が苦手で、基礎となる
楷書を軽視している傾向にあります。
その様な文字ばかりを書いていると次第に
骨組みとなる骨格は崩れて行き、本当に美しい
文字が何なのかが分からなくなってしまうでしょう。
昔から書道の世界では「俗っぽくなるな」と
言われています。
一般的に簡単と思われる「書道」ですが
個人的には難しさで言えば断トツでNo.1です。
なぜ、なかなか上達できないのか。
それは一言で言えば「難しい」からです。
紙の余白と黒い墨で文字の美しさを表現する
為には感覚と技術が必要です。
昔はそう言う人が当たり前の様にいました。
実用的な筆文字は墨の濃淡はなく白と黒のみ
。
線の太細を強調したり、かすれや滲みなどの
表現もできません。
粗が目立ち誤魔化しがきかない実用筆文字は
一般的に書きたくない、書けない事から
得意としている人は限られています。
書道家で実用筆文字が苦手な人が多いのは
実用筆文字は一般的な書道とはまた別の
ジャンルとして存在するからです。
(表現方法の違い)
ですから、私は書道家ではなく、実用筆文字を
専門としています。
制限された中で表現する難しさ。
上達しにくく満足感が他のものより少ない。
書いて楽しめる所まで辿りくつことが困難。
このような条件が
書道人口を激減させてしまったのかも
しれません。
書道は余程好きな人でなければ続かない
ストイックな分野です。
書道アートとして火付け役になった人達の
影響力で書道が盛り上がることがいい結果に
結び付くかと言えば必ずしもそうとは
言えないと現実が物語っているような
気がするのは
多くの人が何が美しい筆文字なのかが
分からないまま書いている、
または感覚にズレがあるというのが
わかってしまうからです。
肉体でも書道でも使わなくなれば必ず
衰退していきます。
今や書道に興味を持ってくださる方たちは
本当に貴重な存在です。
私も長年、筆文字に誇りを持って仕事を
してきました。
時々、理解されない方に接して複雑な心境に
なる時がありますが。
それでもこの仕事が私の天職だと自負しています。
たとえ、いつか私自身の命が尽きたとしても
私が書いた筆文字は残っていく。
だとすれば恥ずかしい字は書けないのです。
今日の筆文字は接です 難易度★★★★★
書き方のポイント 女のよこかくをながく
気が向いたら書いてみてください